雨ノ日ニミル夢

 

 

 

 


その日はとても空が暗くて、まるで夜のようでした。
 


 

 

ここ数日のあいだ、雨はずっと降り止まずに私たちを憂鬱にしていました。
長すぎる雨は少し苦手です。
お日様が恋しくて、遠くに行ってしまったパパのように感じられるから。
その日は雨だったにもかかわらずあたたかかったので、よけいにそう思いました。

私はその日、学校のお仕事をしているお友達のことを待っていて
下校時刻がすぎても帰らなかったのですが
ふと、グラウンドを見ようと思い立ちました。

 

 

 

雨の日のグラウンドは不思議です。
いつもまっすぐに思っていたところが大きな穴や細い山の背中になります。
そんな大きな大きな世界が一面に広がるのはおもしろいと思います。

 

 

 

できるだけ雨に濡れないように、体育館からグラウンドに出ることができる出入り口の
小さな屋根に隠れることにしました。

そこは石の階段になっているので、ちょうど腰掛けることができます。
そうして今しか見ることが出来ない大きな湖を見ていると、なにか視線を感じました。
周りを見渡しても誰もいません。
私は後ろを見ました。
そこには一人の女の人がいました。
いいえ、それは少し言葉が少ないです。
そこには一人の『昔、生きていた』女の人がいたのです。
 
 

 

 

その女性はとてもうらめしい目で私を見ていました。
私はピンときました。
以前、お友達が話してくれたこの学校のウワサのことです。

そのウワサでは、ある女子生徒がこの体育館のバスケットゴールあたりで首つり自殺を
したことがあるということでした。
私は彼女がその女子生徒なのだと思いました。

 

 

 

彼女は、なにかすごく怒ったようなかんじで言葉をなげつけてくるのです。
ですけれど、私はその言葉がなんなのかよくわかりませんでした。
そのときなぜかぐらりと目の前がゆがみました。

 

 

 

それはこの体育館の中です。
同じ雨の日。それなのに今日ではない日。
何かとても嫌な夢です。
まわりに同じくらいの学年の女子がいます。
ですがその目は好意的ではありません。
 

 

 


…………あなたなんカ、レギュラーになれるようナヒトジャナイノニ
 

 

 


心臓がばくばくとします。
私はこれが彼女のされたことと思いました。

「アナタは、悪くナイ」

私は精一杯、伝えました。
私の言葉はつたないので、彼女に届いたのかどうかわかりません。
けれどそうすると、次の夢を見ました。

 

 

 

ひどく寒気がしました。
血が凍るような、というのはこういうことをいうのかもしれません。
酷く興奮したような、冷めたようなかんじ。
私は
(また彼女の視点に私はいるのだ)
と思いました。
バスケットゴールを見ています。
手に持っているものをじっと見つめました。
とても丈夫そうな紐でした。

 

 

 

誰か止めてくれれば、と私は思いました。
なぜここはこんなに寒く、彼女、夢の私は一人なのでしょう。

紐が首に食い込む時間が長くなると遠くから暗闇がやってきます。
そこには一人でいてもいいのだと思いました。
ですが、そこでは彼女も私もずっと一人です。

 

 

 

ずっと。

 

 

 

……夢は終わりません。
悲鳴が聞こえました。
しばらくして男の人の声がします。何か名前を呼んでいました。
何度も私はゆりうごかされ、頬を叩かれ、それでも私は何も答えません。

すると……首に刃物が刺さりました。
いいえ、彼は酷いことをしようとしているのではありません。
深く食い込んでしまった『それ』を断ち切るために、彼は刃を首に刺したのでした。

私はそうしてもらっても言葉を発することが出来ません。

 

 

 

彼は何度も何度も彼女の名前を呼んでいました。
 

 

 


「何も出来ないのよ」
私は目が覚めました。
ですが、頭がくらくらして困るので何とかしようと思いました。
先ほどの夢は現実的すぎたので、今いるこの生温い雨の日と見分けがつけづらいのです。

 

 

 

何も出来ない。
それは違うと思いました。
 

 

 


「アナタには彼がいたノニ」
私の言葉に、彼女はききかえしました。
「彼?」
「アナタを助けてくれた、あの人デス」

助けてくれた。
助けられなかった。
……けれど。

 

 

 

「アナタはマダ、一人じゃなかった」
 

 

 


私がそう言うと、彼女は少し困ったような顔をしました。
それから諦めたようにして……
……辛いような、苦しいような、そして悲しいような顔で笑いました。

 

 

 

……気がつくと雨はもうあがっていました。
お友達がグラウンドの端っこから呼んでいます。

「何やってるのメグー!! こんなとこで!」
「あ、月サン」

湿った空気はまだそのままに、空がだんだんと青みを増していきます。
ここ北海道には梅雨というものがないといいます。
ですが、こんな風に一年の中で何日も雨の続く日があるそうです。
エゾツユ、という言葉もあるそうですが、「今年のこれはそうではないね」
と先生が言いました。

 

 

 

「月サン、私、少し透明な人、見マシタ」
「へっ」

月さんはまばたきを二回しました。
とても長いまつげです。私はきれいな女の方をお友達にもてて幸せだなあと思いました。

「……また?! 何か話したり目を合わせたりしなかった?!」
「……少シ、話しまシタ」
「ああ、もうこの子は……! ねえ雪人、あなたからもちょっと言ってあげて」
「なんでだ」
「優」
「パス」
「……ああもうとにかく!
知らない人にはついていかない、むやみに物を拾ったり食べたりしない!」

私はお説教されてしまいました。
そういえば何度も言われていることです。
とても親切なお友達を持てて、私は幸せなのに、なぜこうなってしまうのでしょう。

「途中から子供に言い聞かせる類じゃあないの」
「言うな。つーかむしろ子犬に言い聞かせてるように思えるとかも」
「言ってるじゃない」

 

 

 

水たまりを飛び越えました。
 

 

 


長い雨は降り止みます。
私も少しずつ晴れやかな気分になれます。
私はお友達が大好きです。

ふと振り返って体育館を見ました。
なぜ最後に彼女はあんな顔をしたのでしょう。
それはきっと、私のわからないことがまだまだ多いからなのでしょう。

「どうしたのメグー?」
「あ、ハイ。考え事してまシタ。お待ちクダサイ」

 

 

 

私はお友達の元へ走りました。
 

 

 

 

 

 

 

 

 


end.

 

(Q)…視えちゃう留学生メグのおはなし。