呪いのわらっ太〜台風拡大注意報〜

 

 

 

 

 

 

図書室を後にした二人が向かった先は火野枝月が所属する新聞部の部室だった。星読学園には

他には無い奇怪な部活動が存在するため、月が新聞部に所属していることが雪人には意外に思えた。
階段を下り、東側に位置する部活棟へと足を踏み入れる。

 

新聞部のプレートが掲げられた部屋の扉に手をかけた月の瞳が、隣室を睨み付けている雪人へと向けられた。
 

 

「またなの?」
うんざり顔で問う月に、雪人は一つ頷くと新聞部の隣室へと歩み寄った。
 

 

オカルト同好会。
プレートにはそう書かれていた。
部屋の前に立つだけで、中から漏れるヒヤリとした異様な空気が感じ取れた。
 

 

 


――何かがいる。
雪人の感覚がそう告げていた。
「放っておきましょ。」
「・・・いいのか?」
「私たちが面倒見る義理ないじゃない。」
 

・・
(たちねぇ。)
 

反論の言葉を胸に押し込み、雪人はオカルト同好会の部室から視線を外した。
「さて・・・勝負は一瞬ね。」
 

 

 

 

部室のドアノブを睨みながら月は小さく呟き、勢い良くドアを開けた。
が、今度はそのドアを、開ききらないうちに閉めてしまった。
 

 

バタン!というドアの閉まる音に、ドォンッ!という何かがぶつかる音が重なる。

 

 

月が危なかったとばかりに安堵のため息をこぼした。
「優ちゃ〜ん。」
恐る恐るドアを開けながら中で待ち構えているであろう人物に声をかけると、月と雪人はふと足元に視線をやった。

そこには辞典が落ちていた。
 


きょ、凶器デスカ――!?
 


顔を見合わせた二人は静々と部室の奥の椅子に腰掛けている少女へと歩み寄った。
新聞部部長の浅黄優は肩まである茶色い髪を掻き上げながら、黙々と原稿用紙に向かってペンをはしらせている。

 

完璧にメイクされた派手な顔立ちと、黒縁眼鏡がアンバランスな感じを与えていた。
 

「ごめんね。優ちゃん。」  「何が?」
月の方を見ずに素っ気なく返すと、ペンでトントンと紙を叩いた。
 

「ネタ、拾ってきたんでしょう?」
当然よね、というオーラを発しながら優が聞くと、月は一つ頷き原稿用紙の上に呪いのわらっ太を立たせた。
 

(やっぱ傾いてるよな。)

 

バランスの悪い呪いのわらっ太は今にもパタリと倒れそうだ。
不審そうにそれを眺めていた優は、すぐに興味を失った。つまらなさそうに呪いのわらっ太をペンで小突く。
 

「何?このブッサイクなの。」
バッサリ斬って捨てた優に月があれ?っと不思議そうな声をあげた。
 

「優ちゃん知らないの?呪いのわらっ太だよ?万人が知っている呪術アイテムのわらっ太だよ?」
「いや、わらっ太は知らないだろ。」
 

訝しげな視線が二人を捉えた。
「呪いのわら人形?」
月は優の発言を訂正した。  「呪いのわらっ太。」
やけにこだわるな、と雪人は首を傾げた。
 

「あんたの付けた名前なんてどうでもいいのよ。・・・で、コイツが何?どうしようっての?」
その瞬間月の瞳がキラリと光ったのを雪人は見逃さなかった。

待ってましたとばかりに身を乗り出し、優へと顔を近付けた。
 

 

 

 

「これは事件よ。優ちゃん。」
眉間にシワを寄せながら不吉なことを断言する月の横顔を唖然と眺め、雪人は悲鳴を上げた。

・・・ただし心の中で。
 

(か、帰りたい!)
 

 

 

 

「学園内に夜な夜な響き渡るカーン、カーンという釘の音。お手製呪いのわらっ太を握り締め、

憎しみの言葉を呟きながら泣き崩れる女生徒が一人・・・。」
 

「女生徒に限定されてるのね。」
 

「絵になるじゃない?」
 

「・・・いや、その前に夜な夜な響いてたら噂になんだろう。」
 

「ちゅうも〜く!」
ブレザーの内ポケットから生徒手帳を取り出すと、校則の載っているページを指差しながら月は高らかに校則を復唱した。
 

「星読学園校則第16条!いかなる理由があろうとも20時以降の校内への居残り・立ち入りを禁ず。」
 

「・・・で?」
 

「丑の刻参りが行なわれる時間に人がいないんだから、噂のたちようがないじゃない。」
 

「噂になるのであれば校内じゃなくまずご近所でしょうね。」
 

「裏の林だったら抜けた先にコンビニあんだろ。聞いてみるか?」
雪人の提案に二人は首を横に振った。
 

「仮に店員が不審な物音を聞いていたとしてそれが何になるの?

不審人物を見かけたっていうなら話は別だけど、音だけじゃその先には進めないわ。」
 

優の言葉に頷きながら月は更に付け加えた。

「私たちが聞き込んだことによって変な詮索をされる可能性もあるし、噂の拡大にもつながる。

夜中に生徒が校内に侵入してたなんて噂が広まったら面倒なことになるでしょ?」
 

 

一瞬のやりとりでそこまで計算するところが只者じゃないな、と感心しそうになり、ハッとして雪人は頭を振った。
(この回転の早さがこいつらの悪魔たるゆえんだ。)

 

 

「・・・ってことは結局どうするんだ?」
 

「この証拠物件をもとに怪しい人間に聞き込むのよ。」
ビシッとわらっ太を指差しながら真剣な面持ちで断言した月は、不吉な発言を付け足したした。
 

「最終的には化学部への化学判定要請(強制)も考えてるわ。」
 

 

 

 

星読学園化学部。
通称・狂人の魔窟。
学内の教職員をはじめ、全生徒のDNAデータ及び、指紋までが化学部のコンピューターにはインプットされている。
 

 

 

 

(あれは噂じゃなかったってことか・・・!?)
自分の個人データが狂人の手の中にあることを知った雪人は、悪寒を感じ思わず身震いをした。
 

「まぁそれはホントに困ったときの最終手段だからね。まずは情報を集めましょう。」
 

わらっ太を拾いあげた月は満面の笑みで告げた。

「行くわよユッキー。わらっ太に関わってそうな人物にあたるのよ!」
 

「・・・あぁ、もぉ勝手にしてくれ。」
 

「うん、わかった。」
 

「何がだ。」
 

「それじゃ目指すは生徒会室よ!!」
 

 

 

 

一泊の間を置いて雪人は震える声を吐き出した。
「・・・隣に行ってソイツ投げ付けてこい。」
軽く頷いた優の顔と雪人を交互に眺め、月はえぇ〜っ?と不満げな声を上げた。


 

 

 

 

 

 

 

 

NEXTSTAGE・・・オカルトケンキュウカイ?
 

(Q)…優ちゃん・ド・S♪