災厄のタイフーン・ガール
午後の授業が終わり部活や街に繰り出すもの達で賑わっている廊下を、速水雪人は重い足取りで
二階の隅にある図書室へと歩いていた。
180はあるであろう長身に加え、非凡な美貌の持ち主である雪人は歩くだけで周りの視線を集めた。
すれ違う女生徒達が顔を赤らめささやきあう声が雪人の耳に入る。
(うるさい・・・)
切れ長の瞳が苛立たし気に細められる。
その瞳が開け放たれた窓へと向けられた。
校庭を見下ろすと部活動に励む生徒達の姿が目に入った。
5月になったばかりのこの時期運動部は夏の大会に向けて大忙しだ。
(何が楽しいんだか・・・)
冷めているな、とは自分でも思った。昔からそうだ。馴れ合うのは面倒だ。
そんな雪人が最近頻繁に通う場所があった。
月読学園図書室。
この学園の特徴の一つにあげられる図書室は、市の図書館並みの蔵書量を有している。
そのため学園に生息している本の虫達が連日入り浸っていたりもする。
雪人の目的は本などではない。そこにいる人物に用があるのだ。
学年があがると同時に雪人の世界は一変した。
この学園では2年次にクラス替えが行なわれる。それが彼にとって運命の分かれ道となった。
また同じ一年が繰り返される。そう思っていた雪人の前にその人物は現れた。
人のテリトリーに不法侵入し、バリケードを作って抵抗しようものなら問答無用でバズーカ砲。
今まで築き上げてきた常識を核ミサイル並みの破壊力で粉砕。未知との遭遇。まさにそれだった。
あれから一ヵ月か過ぎようとしているが、今だにあの時のクラス替えが悔やまれてならない。
雪人の足がピタリと止まった。図書室と書かれたプレートを一睨みするとドアを開いた。
室内を見渡すと本を選んでいる生徒が数名目についた。長テーブルでペンをはしらせている者もいる。
日常になった光景を眺めつつ室内へと足を踏み入れた。
貸し出しカウンターの前を通ると一年の女生徒がぺこりと頭をさげてきた。
雪人は別段何を借りるわけでもないが、ここ数日で常連の仲間入りをはたしたらしい。
少しの間のあと雪人も微かに頭を下げた。
本棚の間をすりぬけて迷う事無く窓際の指定席へと歩を進める。
夕焼け差し込む窓際の席に頬ずえをつき本を読んでいる少女がいた。
腰まである黒髪。サイドの髪は耳の横で切り揃えられている。いわゆる姫カットというやつだ。
まるで日本人形のように美しい少女は本から顔をあげ、大きくくりっとした瞳を雪人へ向けると開口一番こうのたまった。
「やっぱ呪咀の王道はわら人形よね?」
――台無しだ!!
どこからか叫び声が聞こえた気がした。
少女の名は火野枝月。変り者揃いの月読学園でもトップクラスの変人である。
to be continued...
(Q)・・・主人公とその僕登場です。